HOME CULTURE & LIFE COLUMN 4時間目「AIは『できない』をほめることが『できない』」(前編)

ふつう「教室」という場は、「できる」とほめられる場です。
そして「知っているよ」と言えば、ほめられる場です。

これは大人の社会や職場でも基本的に変わらないでしょう。

「自己肯定感」なんてコトバもずいぶんと定着して、昔よりも「ほめられて育って」きた子どもが増えました。

ところが、2019年6月18日に内閣府が発表した「子ども・若者白書」によると、日本の満13歳~29歳にあたる世代の「自己肯定感」は、日、米、英、独、仏、韓、スウェーデンの6カ国中で最低の水準にあり、その傾向は2013年以降、「悪化」していることがわかっています。

また、世界156カ国を対象にした「国民の幸福度」に関する調査でも、日本はこの5年間だけで、46位から58位へと順位を落としています。

ということで、今回から2回にわたって、「自己肯定感」について考えてみたいと思います。

まず、小学校低学年の算数の文章題を一題出してみます。

問題
「今、5人の子どもがいます。一人に3個ずつアメをあげるには、全部で何個のアメが必要でしょうか。」

もちろん、掛け算を習った後なら、そう難しい問題ではないと思います。
おそらく最も多い解答例は以下のようになるでしょう。

解答A
3×5=15(または5×3=15)  答え.15個

では、まだ「足し算」しか習っていない子どもに出題したら
どうなるでしょうか?

このとき、文章題が苦手な子がやりがちなのが、以下のような誤答です。

解答B
5+3=8  答え.8個

この誤答を見て、みなさんなら、どんなリアクションをしますか?

「まだ『掛け算』を習ってないからしょうがない。」とか、「やっぱり、先取り学習をさせて『九九』でも覚えさせよう。」とか思ったとしたら、ちょっと待ってください。

まず確認するべきは、その子は「本当に『足し算』を理解しているか?」という点です。

今回の例題で足し算を選択しているということは、実は「足し算」の本質を理解していない可能性が大きいからです。

むしろ、この場合「先生、これは足し算では「できない」よ。」と言ってくる子どもの方が、足し算の本質を理解しているとも言えます。(本当はできますが。)

ところが「AI」には、この「できない」の裏の意味がわかりません。

人間は「理解している」からこそ、「できない」と判断し得ることがわからないのです。

「AI」を搭載した教材の弱点が、もう一つあります。
それは、例えば「足し算の文章題」ができないと判定すると、その前の「足し算の計算」に戻るよう判断されてしまうところです。

ですが、計算として「5+3=8」が「できる」かどうかと、文章題で使えるかを論理的に判断できたかは、まったく次元の異なる話です。

例えば、先ほどの誤答に「単位」をつけて書き直してみましょう。

5(人)+3(個)=8(人個?)… いったい、「人」と「個」を足して、どんな単位が生まれたのでしょうか(笑)

そもそも足し算には「同じ単位」同士でしか足せないという、基本的な性質があります。

計算練習をして、足し算が「できる」ような気になっているとしても、このような足し算の性質を「理解している」とは限らないのです。

AIの限界はもちろんですが、私たちが気をつけなければいけないのは、人間であっても「AI」のように、表面的な基準でほめたり、しかったりすることがあり得るという点です。

「100点を取った」ときや、何かが「できた」ときに、その「結果だけ」をほめるなら、「AI」でもできるでしょう。

一方で、人間の先生だけが持つ良さは、「できない」と言われたときでも、その子の思考の過程を理解し、「ほめてあげられる」ところだと思います。

ところで、みなさんの中に「A」「B」以外の解法を思いついた方はいましたか?

私の教え子の中にも、別の解答を思いついた小学校2年生がいます。
彼は、まだ「掛け算」を習っていない、つまり、掛け算が「できない」段階でした。

次回は、その子が思いついた「解答C」の紹介から始めたいと思っています。

それでは4時間目の授業を終わります。

村上 陽一(むらかみよういち)
・小学校時代は、野球、サッカー、陸上と、いわゆる「暗くなるまで外にいる」タイプ。
・中3時に新設された茅野市立東部中学校に移り、初代生徒会長及び文化祭実行委員長を兼任。
・清陵高校に進み、サッカーにバンド活動、清陵祭実行委員長と高校生活をエンジョイ(笑)。
・国立東京学芸大へ進学。この頃の優先順位は「バンド→塾でバイト→勉強」と、さらにエンジョイ(苦笑)。
・1999年、東京都東大和市で独立起業し学習塾を経営。後に母の看病のために塾を譲渡し帰郷。
・2005年、都市部とは異なる地域のニーズに応えるべく茅野市に学習塾『学び舎Planus(プラナス)』を設立。
・2015年、母校東部中学校の初代同窓会会長、学校評議員、コミュニティスクール運営委員を務める。

~最近では~
・子どもが算数大好きになるには、まずママからと「ママが楽しむ算数講座」を開講。
・東部中学校内で「放課後自習教室」をサポートするボランティア活動をスタート。
・不登校のお子さんのための居場所、学習支援を行う『Glück(グリュック)』を始動!!
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