HOME FOODS COLUMN その4『私の考える“美味しいコーヒー”その② 愛と勇気』

ウチは、夫婦2人暮らしです。 2人でコーヒーを飲む時、淹れるのは、仕事じゃない時でも、やっぱりほとんどが、私です。

でもごくごくまれに、ひょんな事から、妻が淹れてくれることがあります。そんな時、それが、どういうわけか、私の淹れるコーヒーよりもスゴく美味しい。

柔らかくて、ほのかに甘くて、優しい味がするんです。何故なんだろう?そう思って妻のコーヒーの淹れ方をジッと観察してみると、、、私の淹れ方とほとんど同じで、大きな違いが見つかりません。でも、ハッとしました。

1つだけ決定的な違いに気が付いたのです。

注ぎ方の違い? 時計回しor反時計回し

それは、コーヒー粉にお湯を注ぐドリップポットの動かし方でした。私は、【時計回し】…ポットを右に回しながら湯を注いでいたのですが、妻は、その逆【反時計回し】…ポットを左に回しながら湯を注いでいたのです。

以前、聞きかじった『コリオリの力』というのを思い出しました。 北半球では、台風などの渦が反時計回り、左回りになり、南半球では時計回り、右回りになるというアノ話です。

もしかすると、北半球で自然にできる左回りの渦と同じようにポットを回しているから妻のコーヒーは、美味しいのかもしれない。私は、その反対、不自然に右に回しているからダメなのかもしれない。そう考えて、私も北半球の自然の渦と同じ左回しでコーヒーを淹れてみました。

そして、それを飲んでみると、ん?、ん?、ん?、特に何も変わらない。
いつもと同じコーヒーです。

そこで『コリオリの力』の影響でできる北半球と南半球の渦の違いについて少し調べてみました。すると、どうやら台風などの大きな渦は、『コリオリの力』の働きで、それぞれ左回り、右回りになるとのことですが、洗面所の栓を抜いた時などの小さな渦は、北半球・南半球に関わらず、『コリオリの力』の影響は少なく、その時々の偶然で右回りになることも左回りになることもあるのだそうです。

つまり、ドリップポットを注ぐ時に回す程度の小さな小さな渦には、『コリオリの力』の影響は、無い。ということなのでした。

なぜ美味しくなる?

どうやらドリップポットの回し方は、美味しさとは、関係が無い。

では、なぜ妻の淹れるコーヒーは、美味しいのか?
ある時の妻のひと言で、あっけなくその答えが分かりました。

初めて仕入れた新銘柄のコーヒー生豆をテスト焙煎し、試飲した時のことです。私は、内心「イマイチだなぁ、コクと甘みが、少ないなぁ〜」と感じていたのですが、妻は、「コレ美味しい〜!」と絶賛。その言い方・表情から“お世辞”ではないことは明らかで、本当に美味しいと感じている様子でした。このコーヒーを淹れたのは、私です。

「美味しくなーれ!美味しくなーれ!」と念じながら、丁寧に、丁寧に淹れました。それでも淹れた本人は、それほど美味しいとは感じなかったのですが、一方、淹れてもらった妻は、とても美味しいと感じていたのです。

もうお解りですね。。。

『ひとに淹れてもらったコーヒーは、美味しい』、です。

飲んでくれる人のことを想って「美味しくなーれ!美味しくなーれ!」と念じながら一生懸命、丁寧に、丁寧に淹れたコーヒーは、飲んでくれる人にとっては、絶対に、絶対に、それは間違いなく美味しいコーヒーなのです。

ここに、理屈なんて入り込むスキは、無いのです。

“愛”ですよ“愛”。

誰かのために、一生懸命に、淹れたコーヒー。
誰かが、自分のために、一生懸命に、淹れてくれたコーヒー。

これが、私の考える普遍的なもう1つの“美味しいコーヒー”です。

次回は、『勇気』について考えてみます。

コーヒー豆焙煎師 八ヶ岳珈琲工房 テーブルランド
中原英貴
富士見町在住。東京・中野区出身。 テレビディレクター時代の番組ロケがきっかけで縁が繋がり 2001年富士見町に移住、二拠点生活をスタートさせる。 妻が始めたパン教室で新たな縁が繋がり、2005年にコーヒー豆の焙煎を始める。 仕事で東京へ通わなくて済むようになりたいという理由で テレビディレクターから自家焙煎コーヒー豆製造販売に転業。 番組作りと同じように、可能な限り妥協の無いとことんこだわった仕事を心がけ、 人に感動してもらえるような美味しいコーヒー作りを目指しています。
Facebook