5年前、八ヶ岳に彗星のように現れた「生とうもろこし」。メロンより甘い糖度20度のそのとうもろこしは、毎年あっという間に完売してしまうほどの人気がある。茹でて食べる、焼いて食べるとうもろこしが、そのまま食べた方がフルーツのように甘い…なんて。
今回のインタビューでは、いままさに予約開始となった「生とうもろこし」を生産している農家・HAMARA FARMの折井祐介さんにお話しを伺った。(以下、敬称略)
原村に生まれて…
折井さんは高校を卒業してから留学していたと聞きました。農業にはいつ頃興味を持ち始めましたか?
折井:僕は原村で生まれて、高校卒業後にカナダにカレッジ留学をしました。原村での暮らしはあまりにも当たり前すぎて、こんなに豊かで恵まれた自然環境があることはカナダに行ったことで自覚しましたね。海外生活のおかげで、客観的に故郷を見られるようになりました。
実家ではもともと祖父母が農業をしていました。最初、自分も農業をやろうなんて全く思ってもみませんでしたけど、祖父母が80歳を越えたときに引退することになり、カナダでの体験やその後就職した旅行会社での経験、そして地元に対する愛着が育っていたことで“ならば、やってみようかな”と思えるようになりました。
農業は旅行業と同じ?
農家になる前に観光業に就いたとのことですが、その経験が今のHAMARA FARMに生きているということでしょうか?
折井:そうなんです。僕にとって農業は旅行と切り離されていないんです。農業をやってみようと思ったときに、僕の中には「観光業につながる農業」というキーワードがありました。観光に来た人に農産物で喜んでもらったり、お土産として購入してもらったり、もっと欲を言うと、“この農産物を食べたいから八ヶ岳に来たい”という人をどれだけ増やすことができるか、そこがテーマになってます。
農家さんの多くは観光業に縁遠いという現実はありますが、せっかく作った農産物が、ただ人知れず出荷されるのでなく、もっと観光と密接につながっていけばいいなと思ってます。
例えば栃木県では苺が有名で、その苺を食べに毎年たくさんの観光客が栃木に来る。これって、農業と観光業がくっついているということですよね。
折井さんにとって八ヶ岳の農業の課題は何でしょう?
折井:八ヶ岳の農産物と言えば「高原野菜」が挙げられると思うんですが、じゃぁ、具体的に高原野菜を食べられるお店ってどこ?という所だったり、そもそも「高原野菜」自体がわかりにくいと思うんです。せっかく高原野菜という言葉が知られているのなら、ここに訪れる人たちにその出口までフォローできたらいいですよね。その農産物がしっかり食べられるお店があること、体験できる場所があることなどが全体の価値を高めていくことだと思っています。
だからこそ、生とうもろこし
そこで生とうもろこしが登場するんですね!
折井:そうですね!僕にとっては“八ヶ岳に行くんだから、生とうもろこし食べていこうよ!”という会話が生まれるくらい一般的になることが目標です。初めて食べたときに僕自身が衝撃でした!
でも最初からとうもろこしを栽培するために農業をしていたわけではないんです。2011年にお互い松本で仕事をしていたHAMARA FARMの柳沢と一緒に原村に戻ってきてから、初年度は20種類くらい、とにかくここで作れるというものを作れるだけ栽培してみました。その中で、とうもろこしを選びました。もちろん、とうもろこしと言えば北海道ですから、僕らは「生」で食べることに拘って、生とうもろこしの聖地=八ヶ岳になるように取り組みを開始しました。
農業を観光資源にしたいというテーマに沿った農作物を見つけたわけですね。
折井:これから人口が減少していくなかで、いかに地域に人をに呼ぶかはとても大事な要素になると思っています。原村はもともとペンション業が栄えていた場所でしたが、村としては農業が主体でした。ならば、農業に観光業の価値をセットにできればいいのにとずっと変わらず思っていて。
僕自身は自分が農家として、作り手のスペシャリストになれるとは思っていません。もちろん一生懸命やってはいますが…。それより農業を取り巻くシステムを整えていくことが自分の役割ですね。
美味しい=産地じゃない?!
地域の流通そのもののシステムを整えていくという社会起業家であることと、農家の両立は難しい面もありますか?
折井:よく「産地」という言葉を聞きますよね。実は美味しい野菜が作れることと、その地域の産地であることはイコールではないんです。「産地」とは、ある野菜がたくさん作れて、たくさん流通できることを指しているんですよね。なので、実際は八ヶ岳のとうもろこしは産地にまで認知されていません。でも産地だから良いってわけでももちろんないです。
はじめた当初も、いや今でも、この農業のやり方に理解を得る事は難しいです。誰が食べるかわからないものを大口で出荷していくのが通常ですが、僕は食べる人が見える、つまり誰のために作っているのかがわかることが今の時代にとって大切なことだと思うんですよね。そう言った意味でも、地道に消費者の人に直接届けることを続けていくしかないかなと取り組んでます※。
※折井さんたちは直売所をやってお客さんと直接コミュニケーションをとることに拘ってきたそうです。
仕事以外に趣味はない!
折井さんのお話しを伺っていると留学~旅行会社~農業のすべてが同じテーマで一貫している気がするのですが、それ以外は普段何をしているんですか?
折井:…普段人と会いすぎているせいか…記事にはならないような話ですが…
休日は本当になにもしないことが趣味です(笑)。ひたすらぼーーーっとしてます。なんにもしないことが幸せです。あまり要領がいい人間ではないので趣味でリフレッシュとかないんですよね。やってること(仕事)が好きなので!
お金がたくさんあって、何をしてもいいのなら、
遺跡が好きなので「トレジャーハンター」になりたいです。全然、農業と関係ないですけど(笑)
でも、発見することが好きなので、生とうもろこしをこれだと思ったように、同じかもしれないですね。
終始やりたいことが一貫している折井さん。農作物を通して、人が動き、お店が動き、地域が動くことを楽しんで挑戦している姿が印象的でした。八ヶ岳が注目されることをこれからも期待しています!ありがとうございました。
取材:8mot編集長みっちゃん
折井さんの「生とうもろこし」、予約開始!
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→ http://8katte.com/SHOP/hamara-201701.html
HAMARA FARMについては
→ http://hamarafarm.com/
Profile
折井祐介(おりいゆうすけ)
原村生まれ、原村育ち。
高校卒業後にカナダに留学し、その後松本にある旅行会社に勤務。
2011年、同級生の柳沢卓矢と一緒に原村へ戻り農業・HAMARA FARMをはじめる。2015年に生とうもろこしが「日本ギフト大賞長野賞」を受賞。同年に、八ヶ岳の魅力的な農産物を発信するために流通と販売を行う会社「ベジバンク」を立ち上げる。