HOME CULTURE & LIFE COLUMN 八ヶ岳を登る前に読んでおく本

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突然ですが、私は山に登る意味がわからない人です。

多くの山ガール&山男の皆さん、本当にゴメンなさい。
謝罪するなら言わなければいいのですが、山は登るよりも遠くから眺める派です。
悪気とか嫉妬心はないので悪しからず。

そんな私も高校の時は山岳部に所属していたのです。
自己最高峰(という言い方があるのか?)は北アルプスの立山(3003m)。高校2年の夏山合宿で登りました。
地元(群馬県)の有名な山は大体登りましたし、雲ひとつない朝焼けの谷川岳の稜線を歩いて率直に感動したのも覚えています。

山に登る意味がわからなくなったのは山岳レースに参加させられてからです。
競技規定の10kgの荷物を背負って、全力で山を走る競技登山をしてからというもの、楽しいトレッキングやのんびりとしたハイキングを夢見ていた私の登山ライフは、ただ猛烈に登って、岩の上を飛び移りながら下る、一歩間違うと足をくじくスリリングな競技になっていました。

そんな私ですが、客観的に見ると八ヶ岳といえば「山」なわけで、個人的な意見はどうでもよくなるくらい認めるしかない知名度と存在感が「八ヶ岳」にはあります。八ヶ岳の本に関する記事を書くのにも、やはり「山」は外せません。

ということで、今回は鈴木ともこさんの「山登りはじめました 2」を紹介します。これで私の山嫌い(?)も治るかもしれません。

マンガでつづる登山体験記

鈴木さんは東京出身。現在は長野県松本市へ移住されています。出版社で編集者として働いた後、エッセイスト・漫画家として旦那さんや山ガールの友人と山に登った様子を発表しています。
今回紹介する「山登りはじめました 2」は、タイトル通り鈴木さんが行った山の様子を綴った内容です。草津白根山、常念岳、八ヶ岳・天狗岳、屋久島・宮之浦岳、槍ヶ岳の登山記が収録されています。

北八ヶ岳、山小屋の魅力

この本で書かれているのは北八ヶ岳にある、しらびそ小屋に泊まる1泊2日の旅です。山ガールの友人との2人旅で、山小屋の魅力を中心に描かれてます。スタートはJR小海線小海駅から千曲バスかタクシー30分で着く稲子温泉。午前10時半頃から歩き始めて、午後1時には、しらびそ小屋に到着。山小屋のお母さんの人柄や愛犬、名物クマザサ茶とかりんとう、食事の詳細など、行ったことがない人にもわかりやすい解説が盛りだくさんです。

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例えば鎖場の鎖を括り付けている切り株に「がんばってくれてるね」と声をかけている様子や、登山中に会った外国人の女性がスカートをはいていたのを思い出したエピソードなど、作品中には女性ならではの視点が多くあります。中でも食べ物の話が充実しています。食事の内容はもちろんのこと、名物や特産品、山の非常食、最後はJR茅野駅前にある「そば屋ちの」の話まで載っています。

明るく楽しく、でもリアルな山行に共感

鈴木さんの作品は「明るく・楽しく」が基本です。「山登りはじめました」からも分かるように登山初心者が胸をときめかせて山に行く様子が印象的です。しかし、山は楽しいことばかりではありません。悪天候で目的を変更しなければならなかったり、思っていた以上に長くて退屈なルートもありません。そんなとき作品中では包み隠さずに「キツイ」「楽しくない」と書かれています。そこが共感できるポイントです。だからこそ、逆に素晴らしい風景や大自然の雄大さに触れたときの感動も信用できます。いいことばかりじゃないけれど、悪いことばかりでもない、実体験をありのままに書いた「山登りはじめました」は、山を体感してみたくなるマンガなのです。

山、登ってもいいかも…

冒頭で山嫌いを告白した私ですが、「山登りはじめました 2」を読んで、ちょっと心が揺らいでいます。でも、まだ半分くらい「本当に山に登る意味はあるのか?」と疑ってもいます。
今度は自分で確かめる番なのかもしれません。これが「山登りはじめました」の魔力なのか、それとも山の魅力なのか。まだ登山未経験のあなたも来シーズンは八ヶ岳で山登りはじめてみませんか?

ライター・校正
まちだ ゆうき
1981年群馬県高崎市生まれ。タワーレコード渋谷店勤務を経て、2010年より長野県富士見町に移住。農業経営と並行して、2014年よりライター・校正として活動を再開。2016年より再び東京に転居して校正・編集に専念する。ヤツガタケノートなど八ヶ岳に関わる記事や農業関連のWEBサイト、また商品販促用のキャッチコピーなど文字に関わることを幅広く手がける。
個人活動としては農業専門サイト「つちとて」を運営(休止中)。合気道初段(絶賛修行中)でもある。
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