HOME CULTURE & LIFE OTHER 1時間ドラマを見るのに2時間かかる! ドラマ『重版出来!』にハマってます

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8motのあんまり八ヶ岳の話をしない担当こと、マンガ系ライターの小林です。
さすがに空気を読んで、ずばり八ヶ岳とはいわないまでも山や自然を題材にしたマンガを紹介するような内容にしようと思っていたわけですが、最近ドラマの『重版出来!』があまりに面白いので、今回はその辺の話をしようという次第です。多少なり誠意を見せて何か八ヶ岳にこじつけようかなとも考えたんですけど、無意味だなと気づいたので、箸休めコーナーだと思って読んでもらえればいいなと思います。祈り。

『重版出来!』って何?

さて、この春からTBS系列で放送されているドラマ『重版出来!』。ちゃんとこちらでも放送されておりますし、観ている人も多いのではないでしょうか。原作は同名のマンが作品です。

「重版出来」という言葉、出版業界以外だと馴染みが薄いかもしれません。読み方は「じゅうはんしゅったい」。出版社や書店さんによっては「じゅうはんでき」と読むところもあるそうです。僕もこの作品を読むまで「でき」と読んでいました。重版というのは、本が売れて刷り増しすることです。重版出来というと、刷り増しした本ができあがることを指します。ヒット作が生まれる瞬間に必ず寄り添っている言葉です。

そんなタイトルどおり、この作品は出版業界、特にマンガ業界のお仕事模様を描いたものです。原作は2011年の連載スタート時からマンガ界隈、書店などから注目を集め、『このマンガがすごい!』の2014年版でもオトコ編4位にランクインするなど話題作になりました。

マンガ家やマンガ業界を描いたマンガというのは、藤子不二雄A先生の『まんが道』をはじめ、かなり昔からあるジャンルであり、同時にここ数年のトレンドでもあります。
zyuhan02http://www.shogakukan.co.jp/books/77803221

そんななかで『重版出来!』が話題を呼んだひとつの理由は、いわゆるクリエイティブと呼ばれるような作家さんの葛藤の部分だけでなく、できあがった本を売る書店さんや、営業、印刷データをつくる製版などの本を支える人たちの仕事にもフォーカスしている点でした。出版小ネタもたっぷりあり、マンガ業界を覗き見られるというマンガ業界マンガの面白みももちろんありますが、ものをつくって売るというのがどういうことか、そこにどんな人たちがどんな情熱を持って関わっているのか、というのを丁寧に描いたお仕事マンガになっているのが魅力なのです。仕事に疲れてしまったときに読むと、「働きたい!」という気持ちにさせてくれる、エネルギーのある作品です。

作中作は現役作家が! とんでもないつくり込みのドラマ版

さて、前置きの時点でだいぶ長くなってしまっているのですが、今回はそのドラマの方の話です。ドラマ版の『重版出来!』も、もちろんお仕事ドラマ、人間ドラマという部分が作品の背骨なのですが、肉付けの部分が飛び抜けて贅沢なんです。

マンガと映画やドラマの大きな違いのひとつに「存在しないものを描ける」というのがあります。映画やドラマ、実写メディアというのは、基本的には存在するものしか映せません。CGなどの発展で変わってきてはいるものの、あくまで実写なので実在しないもの、物理法則を無視したようなものは再現するハードルが高いわけです。一方マンガはというと、この世界に存在しないもの、あり得ないもの、現実では不可能な構図でも描くことができます。逆にいえば、背景にしろ小物にしろ、当たり前にあるものも描かなければ真っ白になってしまうので、そういうものも含めてすべて描かなければいけないという大変さはありますが。

『重版出来!』は出版社を舞台にした作品です。作中に架空のマンガ作品や雑誌がたくさん出てきます。ドラマの場合はそれを全部用意しなければいけないわけですが、これがすごく贅沢につくっているんです。

雑誌の表紙やポスターなども実にリアルにつくられているんですが、何といっても目を惹くのは作中の架空のマンガ作品。今まで登場した作中作は、どれも現役のプロのマンガ家さんがその原稿を描いているんです。

たとえば、第1話から登場している大御所マンガ家・三蔵山龍の絵は、『究極超人あ〜る』や『機動警察パトレイバー』などで知られるゆうきまさみ先生が担当しています。高畑一寸の『ツノひめさま』は、『帯をギュッとね!』や『モンキーターン』の河合克敏先生。そのほかの原稿も、名だたる作家さんが描いています。それを見られるだけでも嬉しいのですが、毎回放送中に「この絵は誰だ……?」と探りながら見るのがまた楽しいです。

こうした画像を使って、さらに雑誌や単行本、ポスターなどをつくっているわけです。マンガの中で描いているのも大変ですが、ドラマではそれを印刷して実際につくっている……。ドラマというのが、ほんのわずかなシーン、映り込みのためにどれだけ労力をつぎ込んでいるんだろうというのを、改めて感じてしまいます。

先日放送された第4話では、「コミティア」という同人誌即売会のシーンも登場しました。この場面は実際に行われているコミティアが協力し、エキストラとして同人誌をつくっているサークルの方々も参加していたそうです。中には商業誌で活躍するプロ作家さんも何人もいらしたということで、映像を止めて何度も見たくなるシーンでした。

またこのエピソードでは、コミティアでも実際に行われている、出版社の出張編集部というものが登場しています。ここも、主人公・黒沢心の務める架空の出版社だけでなく、実在の出版社のブースが設けられていました。『重版出来!』は小学館から出ている作品なので、週刊少年サンデーをはじめとした小学館の雑誌編集部のブースが出ているのはわかるのですが、ドラマではなんと講談社の週刊少年マガジンなど、他社のブースも出ていました。各社がこのドラマのために協力しているんですね。

ドラマとしても非常に面白いのですが、マンガ好きが見ると、とにかくどんどん細かいところに目が行ってしまう作り込みのレベルの高さ。1時間ドラマですが、配信などで見るとちょくちょく止めながら見てしまうので、1話見るのに2時間近くかかってしまいました(笑)。

ドラマの公式Twitterをはじめ、いろいろなところで制作の舞台裏の話が出ているほか、毎回マンガ家さんたちも試聴しながらTwitterに感想などを投稿しています。ドラマを見るだけでなく、その辺もいっしょに見てみるとさらにいろいろな楽しみ方のできる作品になっていますので、ぜひTwitterを見ながら試聴してみてください。配信でも見られますよ。

原作『重版出来!』についてはこちら…
作品詳細『重版出来!』 | ビッグコミックスピリッツ公式サイト -スピネット-
http://spi-net.jp/monthly/comic016.html

ドラマ版はこちら…
火曜ドラマ『重版出来!』|TBSテレビ
http://www.tbs.co.jp/juhan-shuttai/

マンガ 案内人
小林 聖
1981年長野県諏訪市生まれ。出版社、編集プロダクションを経て2011年よりフリーライターとして活動。マンガ関連の記事を中心に、一般ニュース媒体、雑誌などで執筆を行う。
個人活動としてはマンガ専門サイト・ネルヤの運営、Twitter上で行われる年間ベストマンガ選定企画「俺マン」の主催として活動。俺マンは年末恒例企画となり、一部書店ではその順位がPOPに使われている。阿佐ヶ谷LOFT、B&Bなどでのトークイベント開催、ゲスト登壇
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