「えッ!ナニ?このコーヒー?砂糖入れてないのに甘いッ!?」
私が、ただのコーヒー好きのテレビディレクターだった2002年、報道系特番のロケハンで千葉県木更津市を訪れた時のことでした。
ひと休みに一人でたまたま入った駅前雑居ビルのなんてこと無い普通の喫茶店。そこのおばちゃんが淹れてくれたコーヒーが、それまで飲んだことの無い不思議なコーヒーだったのです。
コーヒー特有のズシッとくる渋味やザラつくエグ味が全然無くて、クリアで透明なのに、しっかりコクがあり、砂糖とは明らかに違うなんとも言えないほのかな優しい甘みが口の中に広がったのです。そしてそのコーヒーが喉を通過した後も鼻腔の奥に甘い香りがホンワリ残りました。何ともウットリする瞬間。
こんなコーヒーは初めてで、決してオーバーではなく感動すら覚えたのでした。
私:「おばちゃん、すんっごく美味しいよこのコーヒー。砂糖入れてないのに甘いんだね~。」
すると
おばちゃん:「私にはよく分からないんだけど、KEYコーヒーのイチオシなんだって、すんっごい力入れててオススメだって。」
そうなんです。
このコーヒー、実は、KEYコーヒーのトアルコトラジャだったのです。
「もう一度『あのコーヒー』が飲みたい、、、」 新宿のデパートのコーヒー売り場で『あのコーヒー』トアルコトラジャの豆を買い、週末、富士見町の自宅に帰りました。
早速『あのコーヒー』を淹れて飲んでみます。
期待に胸がワクワクワク。
ひと口飲む。「ん~ ~ん?」
もう一口。「んんん??? ち、違う。」
もう一口。やっぱり違う。
『あのコーヒー』のほのかな優しい甘みが無いのです。どうしたことか?淹れ方が悪かったのか? もう一度丁寧に淹れなおしてみる。
ダメだ。やっぱり違う。ナンテコッター!
「ああ、もう一度『あのコーヒー』が飲みたい、、、」
この日から、ほのかに甘い『あのコーヒー』を探す私の旅が始まりました。
いろんなコーヒー専門店へ行き、いろんなコーヒーを試してみるけど、違う。どうしても違う。「やっぱり『あのコーヒー』は、木更津に限る」 なんて落語『目黒のサンマ』みたいなことを考えてみたり。
こうしてコーヒーにのめり込んで行く私を見ていた妻が、ある日、私にこう言いました。
「私が始めたパン教室に、コーヒーの焙煎機を作っている社長さんが来ているんだけど、一度遊びにおいでって言ってくれてるの。行ってみようよ。」
そこは、ウチから車で10分ほどのプレハブの工場でした。井上製作所 アルプスコーヒーマシン。 井上社長は、話好きで笑顔の優しい職人肌。おしゃべりしながら馴れた手つきでササッと淹れてくれたそのコーヒーをいただくと、、、
「あっ!こっこれだ!『あのコーヒー』だ!」
ほのかな優しい甘み。
クリアで透明。
しっかりとしたコク。
甘い香りがホンワリ。
ウットリする美味しさ。
井上社長のコーヒーは、ナント!私が探し続けていた『あのコーヒー』だったのです。井上社長の話から、コーヒー豆は、焙煎のやり方次第でトアルコトラジャでなくても『あのコーヒー』のようにクリアで甘みのあるコーヒーが作れるのだと分かりました。そしてコーヒー豆の焙煎は、とても奥が深く難しいということも知りました。
例えば、同じ豆を使って同じ火加減で同じように焙煎しても、昨日と今日とで、または、1回目と2回目とで、同じ味にはなかなか仕上がらないのです。木更津のトアルコトラジャと新宿のデパートのトアルコトラジャが違ったのも、もしかするとその為なのかも知れません。ただし、飲んだ時の私の体調や気分だけでも感じ方が変わるので、ハッキリと断定は出来ません。
とても奥が深く不思議で面白そうなコーヒーの世界。
そして話は急展開!
井上社長に焙煎機を作ってもらい、ナント私自身が自分で『あのコーヒー』を作ることになったのです。それまでは、夢にも思わなかった“コーヒー”の仕事が、突然、現実的になって来ました。
その頃、テレビディレクターの仕事のため、東京に通わざるを得ないという状況が嫌になっていたこともあり、自家焙煎コーヒー豆製造販売へと転業することにしたのです。私のコーヒー作りは、『あのコーヒー』をイメージして日々努力をしております。 『あのコーヒー』に出会ったことで、私の人生は、大きく変わったのでした。
※テーブルランドさんオリジナル焙煎コーヒーは、デリ&カフェ「K」のカフェタイムにハンドドリップコーヒーとして飲むことが出来ます!