HOME CULTURE & LIFE COLUMN Vol.3 リビティビトゥ リマビティマビトゥ
茅野市で自宅を開放して「いちにち絵本喫茶」を主宰している店主・いさみなおこによる大人のための絵本コラム

6月に入って、真っ青な空と新緑の山を眺めながら思い浮かべるのは、やはり雨の季節に入ったことかなと自問自答。

6月は水無月とも言って、潤んだ水の月なのは言うまでもない。雨の降る日の静かな空気は内面的で、草木や生き物たちの小さな声は騒がしく生を享受している。いのちの水が慈雨という言葉とともに優しく降りてくる季節。

『雨、あめ』©ピーター・スピアー

文字のない絵本の名手、ピーター・スピアーの雨の日の本。絵本はやはり絵がものを言う。言葉は厳選しても「説明し過ぎてしまう」から。ピーター・スピアーは、雨の日の取りこぼしてしまいそうな小さなシーンや空気感を、言葉なしに子どもの目線になって隅々まで丁寧に描いている。雨の日の楽しさや美しさに目を凝らし、耳を澄まして、ゆっくり読もう。たくさんの思い出を持つ大人は、雨の日の自分の子ども時代を思い出してみるのもいいと思う。

八ヶ岳 県道17号線 先達甲六公園付近からの眺め

この時期、八ヶ岳山麓は新緑に溢れ実に美しいね。梅雨入りしたからといっても雨ばかりでなく、むしろ信州はさっと降ってはあがり、晴れ間も出たり隠れたり。埼玉育ちの私が知るじめじめと降り続ける梅雨とは違って、さっぱりとした印象。

6月の始め、是枝監督の「万引き家族」を観に行った日も気持ちよく晴れていて、印象的な映画だった分、その日が晴れたことも一緒に思い出になる気がした。

映画はとても示唆に富む内容で、映画の中心に万引きを繰り返して生計を立てる家族がでてくる。起こるべくして起こったきっかけを発端に、それぞれの事情が明るみになり、社会の正義に裁かれていく。

私たちは映画を通して、結果的に正義が弱者を本当の弱者に仕立てて行くのを目の当たりにし、正しいかそうでないかだけで成り立つ社会が、どこか得体の知れないいびつさを孕んでいることに気づかされているのだと思う。社会とうまく接点を持てないままに刹那を生きる人がなぜ生まれてしまうのだろう。登場人物の抱えるそれぞれの人生が切なくて、家族とは何か、正義とは何なのか。そんな風に思う映画だった。

『うさこちゃんときゃらめる』©ディック・ブルーナ・まつおか きょうこ

ここに一冊のうさこちゃん。ミッフィーとも呼ばれて、日本ではどちらかというと小さな子向けのシンプルでほっこりする内容のシリーズ絵本としてよく知られていますね。そんななか、この作品ではうさこちゃんの万引きを描きました。出来心で “きゃらめる” をポケットに入れたうさこちゃんは、自分のしでかしたことの大きさに、時間が経つに連れておののき、怖れ、夜眠れなくなってしまいます。翌朝、様子のおかしいうさこちゃんに気づいたお母さんにどうしたのかと尋ねられ、ついに告白。お店に行って、“きゃらめる” を返すうさこちゃん。深い後悔の念に打ちひしがれ、謝罪したところでお話が終わります。

みなさんはもし万引きを見かけてしまったらどうしますか。

うさこちゃんの罪は許されないものです。ですが、うさこちゃんを許すか、許さないかは読後、読み手を含む周りの人に委ねられています。本人以外が幕引きをしないこの終わりがとっても素晴らしいのではないかと思っています。映画と同じ問いかけですね。

Souq Souq 2018

そして迎える6月の終わり。毎年この時期恒例の「八ヶ岳 お山の市場 Souq Souq(スーク スーク)」に家族で遊びに行く。人とモノが雑多に集まったとき、その場所に生じる熱気と温かさが、そこらじゅうに満ちている古いのに新しいイベントで、とても楽しい。アジアンな空気、アフリカンな雰囲気、でもここは日本で、子どもたちの駆け回る姿や赤ちゃんもいて。

クラフトと食べ物と歌と笑い声とがあって、人と人との交流がまさに心地よい場所。昔むかしの活気ある港町のようでもあるし、迷路のようなマーケットのようでもある。そう、スークとはモロッコのマーケットのこと。実は自分の初めての海外旅行がモロッコ放浪旅だったせいで、思い入れが強く、たったそれだけでSouq Souqにとても特別な想いを感じているのが正直なところ。

何もかも印象的だったモロッコ。カルチャーも、食べ物も、飲み物も、暮らしぶりも、会うもの見るものすべてが新鮮な驚きに満ちあふれていた北アフリカの国。迷路、スーク、モスク、匂い、香辛料、染め物、礼拝、ミントティー、クスクス、ハシシ、ドームに見える星空、砂漠に沈む夕日、オアシス、ラクダの群れ、砂嵐に見舞われたサハラ砂漠。青の民ベルベルの人

『MIRROR』©Jeannie Baker

そんな愛すべきモロッコを知ることができる素晴らしい絵本、ジーニー・ベイカーの『ミラー』。観音開きになる本編。左にオーストラリアの家族、右にモロッコの家族を描き、同時にめくっていける作り。モロッコのページはデジャブを感じるくらい忠実に描き出されており、紹介されている暮らしぶりはモロッコの典型の1つであることを確信できる。そして、この絵本の本当の見どころTWO CULTURES, TWO STORIESも押さえておきたい。この絵本は2つの異なる暮らしを並列に扱って、さまざまな共通点を見いだしている。比較するのではなく、モロッコとオーストラリア、それぞれの家族がお互い助け合い、愛し合いながら、その地域の一員となって暮らしを営んでいること。“そのどちらもかけがえのないもの” として紹介されている絵本。いいでしょ。

この『MIRROR』の制作ノート(モロッコの旅の記録)が、ジーニー・ベイカーの公式サイトで見ることができます。ここでは紹介できない絵本の中身が見開きで見られます。おすすめ。

JEANNIE BAKER.com
https://www.jeanniebaker.com/focus/mirror-extracts-from-my-journey/

最後に、私を砂漠に連れ出してくれたベルベルの人に教えてもらった言葉を紹介します。
ベルベルウイスキー(モロッコ名物ミントティ)を飲むときに言うおまじないみたいな言葉。「あなたの欲しいものは私も欲しい、あなたの欲しくないものは私も欲しくない。つまり、あなたに良いことだけがありますように」という意味の乾杯。
みなさんに贈ります。

リビティビトゥ リマビティマビトゥ!!
libiti bitu limabiti mabitu !!

あっという間に一年の折り返し。極陽となり陰に転ずる月。身体の調子も切り替えどきですね。夏越しの祓えに乗って半年の疲れを持ちこさないように。

今月のおやつは6月の和菓子「水無月」を。
あんこをじっくり炊いて、葛を練る。
我が家の水無月は「お醤油味」のオリジナル。
玉露と一緒にいただきます。

ではまた次回。

いちにち絵本喫茶店主
いさみなおこ
八ヶ岳の麓でときどき開催しているブックカフェ「いちにち絵本喫茶」を主宰。
オープンハウスにした自宅で、蔵書約1200冊の絵本と毎回テーマのある絵本を選書して、みなさまをお出迎え。こだわっているのは「絵本の体験」と、美味しく安心して食べられる自家製おやつ&飲みもののある読書の時間。日々が豊かになる絵本のある暮らしをみなさんへ。
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