私は八ヶ岳に棲みついた天涯孤独の一匹オオカミ、逢徒狼。
この界隈にひっそりと、しかししぶとく美しくあり続ける地スポットを紹介していきたい。
今回は「見えざる八ヶ岳」だ。
普段下界からは決して見ることのできない場所、誰も目指すことのないだろう通過点、しかし、ここからしか見ることのできない絶景がそこにはあるのだ。
今回は初めて潜入する場所、しかも4時間はかかる。さらに日頃の抗争で痛めた肩と膝がいつ爆発するかわからない状態だ。備えあれば憂いなし、今回は新入りの舎弟を同行させることにした。
彼の名は、元場狼。
はからずも私と名前が同じだ。
さあ、出発だ。
歩き始めると程なく分岐が現れた。
、、、裏街道ばかり歩いてきた私は無意識に南沢ルートを選択。
沢沿いを歩くこと約2時間強、雲の切れ目から時折差し込む日差しが湿った私の心を乾かしてくれる。
ふと、地面を見ると何やら控えめな看板が目に入った。
行者とは、「仏道・修験道の修行を行う者」とある。悟りを開くための苦行の場所なのか、、、だとしたらマズいことになりそうだ。
いや、素敵な佇まいの山小屋だ。
まだ朝の9時前だというのに、腹が減った元場はラーメンを頼みやがった。行者ラーメン、水餃子が美味そうだ、、次は必ず食ってやる。
ラーメンで腹ごしらえしたら、さあ出発だ、今回の目的地はまだまだ先。
なだらかだった道がだんだんと険しくなっていく。
ふと振り返ると行者小屋がもうこんなに小さく見えていた。
おや、ヘリコプターがどこからともなく現れたぞ、何かの取引が始まるのか?
何やら物の入ったものを落下させているじゃないか!
まさか、、、
いや山小屋で使う食料などの物資らしい、、、
小屋を出てから1時間ほど経っただろうか、
前方の視界が開け、山の稜線を見渡すことができるようになった。
本日の目的地は近いようだ。
到着。
中岳。
そう赤岳と阿弥陀岳に挟まれた小さな山、誰も目指すことのないだろう通過点。
阿弥陀岳に隠れて私の縄張りからは普段決して見ることのできない秘めたる山、山頂標識さえ控え目。しかし、ここからしか拝むことのできない景色がそこにはある。
こちらだ。
急峻な山容がなんとも言えず美しい、嗚呼美しいのだ。中岳こそが八ヶ岳の核心部なのではないかと思えて仕方がない。
騙されたと思って是非一度足を運んでほしい。
実は、中岳にも鞍部、ダークサイドがあるのだ、その名も「中岳のコル」
洒落た名前をつけやがって。フランス語でコル=鞍部ということらしい。
やたら狭い、いや控え目。
さて、今日はここで昼飯をいただくとしよう。
本日の昼飯
今日の昼飯は元場が2品用意してくれた。
まずは厚切りベーコンとバジル、とろーりチーズのホットサンド。
私の縄張りで商売しているBar Paquitoの味には及ばないが、なかなか美味いじゃないか。
そしてカレー風味のペンネ。
あらかじめ調理したものを冷凍してあるので、あとは温め直すだけだ。
山でインスタントではない温かい食べ物をいただく、なんという贅沢。
やるじゃないか元場。
ご馳走様でした。
本日のコーヒー
コロンビア ナリーニョ マイクロロット。
そう、先のサッカーW杯ロシア大会で日本代表が勝利をあげた相手、南米、コロンビアだ。レッドカードで退場したカルロス・サンチェスを決して責めてはいけない。もし私があの場に立っていたとしたら、おそらく同じように無意識に手を出して止めていただろう。むしろ、あのコースにシュートを打ったシンジ・カガワを褒めるべきだ。
おっと、話がそれてしまった。
標高2,000m近い高地で生産される繊細でありながら力強いコクと香りに優れた上物、今日はこいつを中岳のコルでいただくとしよう。
新入りにはキツめの深煎りをお見舞いしてやろうじゃないか、中粗挽き、36g。こいつを400ccのお湯で落とし淹れて二人分だ。
完成。
食後のたるんだ胃の中に一気にぶち込んでやる。
「苦いっす」
若い元場には刺激が強すぎたようだ。
仕方がないからお湯で薄めてやった。
何度も言うが山での珈琲時間は最高だ、何物にも代え難い至福の時。
本日のルート
美濃戸 — 行者小屋 — 中岳のコル — 中岳 — 中岳のコル(昼食) — 行者小屋 — 美濃戸