個人活動としては農業専門サイト「つちとて」を運営(休止中)。合気道初段(絶賛修行中)でもある。
こんにちは。ヤツガタケシゴトニン ライターのまちだです。
今日は本の紹介というよりも、「諏訪地方(中信)の方言」について書きたいと思います。
まず参考にした本は、この2冊です。
右:『方言の日本地図 ことばの旅』真田信治(講談社)
左:『都道府県別 全国方言辞典』(三省堂)
どちらの本にも全国各地の方言が網羅的に載っています。その中から長野に移住した時から気になって仕方なかった「ズラ」について調べてみました。
秘打!勘違いしてた「ズラ」
私が長野に住み始めて最初に気になった方言が「ズラ」です。明らかに他地域とは違うその響きに、初めて耳にしたときは「んんんっ?!」となったのを覚えています。でも、何か憎めない、しかも真似したくなるような印象でもありました。
もともと「ズラ」に抱いていたイメージは、ドカベンの殿馬の口ぐせでした。あのキャラクターと「ズラ」がつながって、もしかしたら殿馬の出身地は長野かも?などと想像したり(殿馬一人の出身地は神奈川県だそうです)。
(引用元:http://bokete.jp/odai/131648)
この絵のように、ただ語尾として付けたり単独で言うのが「ズラ」で、特に意味などないと思っていたのです。
ちなみに、こんな歌もあります。
なにか違う「ズラ」
ある時、殿馬の「ズラ」の使い方と、地元の方の「ズラ」の使い方が違うの気づきました。地元の方は相手に向かって「〇〇ズラ?」と聞いていたのを目にしたからです。
家に帰って調べてみると、殿馬の「ズラ」が本来の使い方ではないことが分かりました。
口癖は語尾につける「づら」。そのため山田の妹・サチ子からは「ズラ」とあだ名されている。この「づら」という語尾は、主に静岡・山梨・長野県で使われるものであるが、実際に使われるのとは用法(意味合い)が異なる。(wikipedia:https://ja.wikipedia.org/wiki/殿馬一人)
正しくは「〇〇ズラ?」
「ズラ」の正しい使い方は、最後に「?」がつく問いかけだったのです。相手に同意を求めるときによく使われるようです。そうだとわかってからは、地元の方の会話がすんなり理解できるようになりました。
『方言の日本地図 ことばの旅』真田信治(講談社)には「ズラ」が疑問に使われることだけでなく、「ズラ」と似ている「ラ」の用法と、それぞれに接続される語句が解説されています。
推量表現の「ズラ」は、いわゆるナヤシ方言(長野・山梨・静岡の方言)での一つの指標です。この地域では推量の形式に「ラ」もあって、二つの形式は併用されていますが、接続上の用法が異なっています。「ラ」は、例えば「雨が降るラ」「寒いラ」のように動詞や形容詞に接続します。意味は「だろう」に対応します。しかし、「ラ」はいわゆる形容動詞や名詞には接続できません。形容動詞や名詞には、例えば「静かズラ」「雨ズラ」のようにズラが接続します。この場合、意味は「なのだろう」に対応します。(『方言の日本地図 ことばの旅』真田信治(講談社)P89)
また、『都道府県別 全国方言辞典』(三省堂)には長野県内でも「ズラ」に対応する語句の微妙な違いが書かれています。
推量をあらわす表現は、たとえば「そうだろう」の場合、東北信では「ソーダラズ」、東中信では「ソーズラ」、南信では「ソーダラ」と言う。(『都道府県別 全国方言辞典』(三省堂)P131)
普段なにげなく聞いていた「ズラ」一つをとっても、これだけの研究がされているとは驚きました。
受け継ぐ「ズラ?」
『方言の日本地図 ことばの旅』真田信治(講談社)には、失われつつある方言に対する懸念が書かれています。
本当に純粋方言というものが存在するかどうかは実はわからないのですが、私の経験では、少なくとも今までの教科書に載せられていたような伝統的方言を確実に記述することができるのは、やはり明治生まれの人が最後のような気がします。(『方言の日本地図 ことばの旅』真田信治(講談社)P204)
方言について調べていると、こんな動画を発見しました。
先ほどの南信編では「ズラ」は使われていませんでしたが、こちらの「山梨」編では使われています。
言葉を受け継ぐのも一つの文化です。皆さんも、誰かを連れて八ヶ岳に遊びに誘うときは、「八ヶ岳に行ったことあるズラ?」と聞いてみてはいかがでしょうか?