HOME CULTURE & LIFE OTHER 山林を買って自給自足……憧れるけどなかなかできない生活を実践したルポマンガがあります

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自然に囲まれた環境ですが、週1程度しか外に出ません。ライターの小林です。

今年の3月が暖かかったり雪が降ったりと、周囲の景色も日々表情を変えて、本当にこの辺りはキレイだなーとしみじみ感じたりしていましたが、基本的に家の中でできてしまう仕事なので、靴を履くことすらない日が大半です。普段「あ、それとタバコ……67番をカートンで」以外の言葉を発声することがほとんどありません。静かな生活。

そんな感じでバリバリのインドア派、家電がないと何もできないというタイプにも関わらずというか、そんな生活をしてるからこそなのか、ときどき不安に感じてしまうこともあります。ちょっと電気、ガスがないところに行ったらご飯すらつくれないよなーとか、ほんの200年くらい前の世界に行ったら生活するのすら難しいよなーとか考えてしまうんですね。できるとかできないとか以前に、「自給自足に近い生活って、どういうふうにやっていけばいいのか」「何で困って、不可欠なのは何か?」というのを具体的に想像するのも難しいです。

「じゃあ、実際に自給自足生活をするとしたらどういう感じになるの?」というのを描いた作品がマンガにもあります。『まんが 新白河原人 ウーパ!』です。

upa02http://morning.moae.jp/news/2398

この作品は首都圏を離れて福島県に移住したベテランマンガ家の守村大さんの生活を描いたドキュメンタリー的な内容です。単に地方への移住というだけならそれほど珍しいことではありませんが、守村さんの場合はいわゆる住宅地でなく、山を買ってそこに住むことを決めたんです。買った山の広さはなんと約1万2000坪。おおよそ東京ドーム1つ分の山です。30年近くマンガ家として生きてきた守村さんが、そこで47歳で突然始めた自給自足の生活を始めたのです。

この作品の面白いところは、基本的に業者などに頼らず、ゼロから自分の手で生活の基礎をつくっていく様子を描いているところです。たとえば家づくり。2006年初夏に山へ移った守村さんは、まず住むところを確保するところからスタートします。家を建てるというと、まずぼんやり頭に浮かぶのは「基礎工事をして……」というような工程ですが、この作品ではその前段階から始まります。

山への移住ではまず整地が必要になります。しかも、土地を平らにするとかいうレベルではありません。篠竹などに覆い尽くされた山に道を作るのが最初の仕事です。まずは鎌を使って手作業で進めるのですが、半日かけてもほとんど進まず……。エンジン刈り払い機を購入しての作業に切り替えて道を作ったら、次は木の伐採。切り倒すのはチェーンソーを使うんですが、根の部分は1日かけて1本しか掘り起こせない。

専門家でないからこそ、まずは手作業から始めており、人力の限界というのが丁寧に描かれています。そして、何が必要になるかというのもひとつひとつ描かれます。家のようにわかりやすいものだけでなく、トイレや井戸の確保など、「そういえばどうすればいいんだろう……?」という部分に気づかされます。

その後、丸太を使ったログハウスをつくり、本格的に移住した守村さんは、サウナづくりや食料確保、炭窯づくりなどに挑戦していき、山での自給自足の生活を確立していきます。連載では現在、2011年3月、東日本大震災のときの様子が描かれている真っ最中です。

「自給自足の生活ってやっぱり大変だなぁ」というのを感じる一方で、「本気になったらここまでできるのか」という逆の驚きを感じる一作。「八ヶ岳エリアでもやろうと思えばできるのかな?」なんて考えながら読んでみるのも面白いですよ。

まんが新白河原人 ウーパ! / 守村大 – モーニング公式サイト – モアイ
http://morning.moae.jp/lineup/478

マンガ 案内人
小林 聖
1981年長野県諏訪市生まれ。出版社、編集プロダクションを経て2011年よりフリーライターとして活動。マンガ関連の記事を中心に、一般ニュース媒体、雑誌などで執筆を行う。
個人活動としてはマンガ専門サイト・ネルヤの運営、Twitter上で行われる年間ベストマンガ選定企画「俺マン」の主催として活動。俺マンは年末恒例企画となり、一部書店ではその順位がPOPに使われている。阿佐ヶ谷LOFT、B&Bなどでのトークイベント開催、ゲスト登壇
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